1950年代、モトクロスライダーとして輝かしい戦績を残したデレク・リックマンとドン・リックマンの兄弟。1959年、彼らはレースへの情熱をメティス Mk1 という形で結実させ、後に名声を築くモーターサイクル事業の第一歩を踏み出しました。
ライダーとしての卓越した技量と、革新的なモーターサイクルの設計。その双方がもたらした成功によって、リックマン兄弟は、その後数十年にわたり、世界中から称賛を集める名声を確立していきました。
1962年、後に伝説となるメティス Mk3 が初めてレースに投入されました。このモデルの登場は、メティスの革新的な設計思想と卓越したエンジニアリングを象徴する、新たな時代の幕開けとなりました。
モトクロスでは、モトクロス・デ・ナシオンをはじめ、250cc および 500cc のグランプリ、さらには数え切れないほどの国内レースで勝利を重ね、その実力を世界に知らしめました。
1966年、メティスはトム・カービーとの協力により、マチレス G50 をベースとしたロードレースの世界へ進出しました。
メティス初のロードレーサーは、革新的な設計と卓越したハンドリング性能を備えた意欲作でした。その完成度を支えたのが、ロッキード製ディスクブレーキの先進的な採用と、独自開発のフロントフォークです。
ビル・アイビー、アラン・バーネット、ケル・カラザースといった伝説的なライダーたちがメティスを駆り、マン島 TT レースをはじめ、世界各地のサーキットや公道コースで数々の栄光を手にしました。
1970年代、デザートレースにおける輝かしい戦績によって、メティスの名声はアメリカでも一段と高まりました。
その魅力を支持したのは、スティーブ・マックイーンやバド・イーキンスといった、モーターサイクルの歴史に名を刻む人物たちでした。
さらに1974年には、優れた輸出実績が評価され、英国女王賞(Queen's Award to Industry)を受賞。メティスの功績は、英国産業界からも正式に認められました。
レースでの成功は、いつの時代も人々の憧れを呼び起こします。
競技の世界で培われた技術と魅力を、公道へと受け継いだ代表的なモデルが CR750 でした。
総生産台数16,000台のうち、2,000台以上を CR750 が占めたことは、このモデルが多くのライダーから支持された証しといえるでしょう。
1982年、パット・フレンチがメティス Mk3 とカフェレーサーの製造を継承しました。創業当時の成形型や治具を受け継ぎ、モーターサイクルの製造と補修部品の供給を続けたのです。
1980年代から1990年代にかけて、日本のモーターサイクルメーカーが技術力と市場での存在感を高めていくなか、パット・フレンチと彼が率いる MRD 社の尽力によって、メティスの伝統と名声は守り続けられました。
リックマン兄弟、再び本領発揮……メティスの男たちにとって輝かしい一日……冷静沈着、緻密、そして揺るぎない意志。
決して進化の歩みを止めない。それこそが、メティスが長年にわたり貫いてきた姿勢です。
その精神を受け継いだ現オーナー、ジェリー・リシは、2つの意欲的なプロジェクトに着手しました。
2005年、新たなモデル、メティス Mk5 の開発計画が始動。それは従来のフレームキットの枠を超え、独自設計のエンジンを搭載する、新世代のメティスを生み出す挑戦でした。
専用開発された8バルブの Adelaide(アデレード)エンジンは、新たに設けられたカースウェルの工房において、設計から機械加工、組み立てまでが行われました。
革新を追求し続けるメティスの哲学。その理念のもと、メティス Mk5 は現代の優れた設計技術と、伝統的なクラシックモーターサイクルの美学を融合させた1台として誕生しました。
2008年、スティーブ・マックイーンが愛した伝説的なデザートレーサーを再現するプロジェクトが始動しました。
この計画には、スティーブ・マックイーンの息子であるチャド・マックイーンが自ら参加。細部に至るまで、オリジナルの意匠が忠実に再現されていることを確認しました。
さらに、バド・イーキンスの兄弟であるデイブ・イーキンスも開発に携わり、初期の試作車に細かな改良を重ねることで、スティーブ・マックイーンが駆った伝説のマシンを精緻に再現しました。
マックイーンの遺産管理団体から300台限定の製造許諾を受け、メティス Mk3 の伝説は新たな時代へと受け継がれています。
数々のレースで刻んだ栄光。スティーブ・マックイーンが愛したデザートレーサー。そして、独自開発のエンジンを搭載したモーターサイクルを手作業で生み出す、英国唯一のメーカーであるという誇り。
これらは、現代のメティスを語るうえで欠かすことのできない歴史と伝統です。
ハリウッドとの深い結び付きも、今なお続いています。新たに製作された Mk3 Hammer は、映画『コードネーム U.N.C.L.E.』において、物語を彩る象徴的なモーターサイクルとして登場しました。